自転車泥棒

2011年10月30日 14:15

こんにちは。
技術部兼作品選定部の藤原です。

今日はCLARK THEATER 2011の長編プログラムの一つ、名作『自転車泥棒』を紹介したいと思います。
映画好きなら見たことのある人も多いと思いますし、そうでなくとも題名を一度ならずと聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
監督はヴィットリオ・デ・シーカ。本作や『ウンベルトD』などでネオレアリズモの巨匠と呼ばれた、イタリアを代表する映画監督の一人です。
『ひまわり』とか見てる人結構いるんじゃないでしょうか。あれもデ・シーカ監督の作品です。

ちなみにネオレアリズモとは第二次大戦後のイタリア映画で盛んとなった、現実を客観的視点から、ドキュメンタリー的手法を用いて描こうとする潮流 のことです。
扱う題材はレジスタンスや貧困など。代表的な作品は『無防備都市』『揺れる大地』、そしてこの『自転車泥棒』です。

あらすじはとてもシンプルです。
「戦後のイタリアで男が息子と共に盗まれた自転車を探してまわる」
これだけです。1行で書けましたね。
なんで自転車を探すだけの物語が名作と呼ばれるのでしょうか。
重要なのは時代背景。戦後混乱期のイタリアで人々は貧困にあえいでいました。
主人公のアントニオもその一人。彼は2年間の失業の末、ようやくポスター貼りの仕事を手に入れます。
で、その仕事には自転車が必要でした。なければ他の人に仕事が回されてしまいます。次いつ仕事にありつけるか分かりません。
つまり自転車はアントニオとその家族にとってライフラインな訳です。
それほど重要なものを盗まれてしまうのです。しかも仕事の初日に。

自転車がないと生活ができない。アントニオは息子のブルーノと共に自転車を探して街をさまようのですが、そこで貧困の中なんとか暮らしていこうと するイタリアの人々が次々と描かれます。
ようやく怪しい人物に辿り着いたと思っても、その人は自分と同じように、いやむしろそれ以上に酷い生活を送っていました。
ただ「盗んだ人間が悪い」と一言で言ってしまうのがはばかられるようなどん底の社会の様子に、やり場のない憤りを感じずにはいられません。
そしてその後訪れるクライマックス。やるせなく、しかし感動的な幕切れはぜひ劇場で。そこら辺のお涙頂戴的な作品の感動とは全く違う質の感動です。

上映時間は90分足らずですが、その中で貧窮にあえぐ社会の情勢を個人の視点を通して巧みに描いています。
戦後イタリアの空気を伝える時代性と、いつの時代も社会の課題である貧困を描いた普遍性、二つを同時に持ったまさに名作。
決して観ていて楽しい作品ではありませんが、こういう作品を鑑賞して社会について、人について、色々と思いを巡らせるのも良いんじゃないでしょうか。

この不朽の名作をぜひ大きなスクリーンで。
クラーク会館でお待ちしています。

SAPPORO ショートフェスト特別プログラム!

01:57

こんばんは、先日も登場しました西本です。
最近は、北大に銀杏並木を見に来る観光客が多いですね。私は銀杏並木を見るのは今年で3年目になりますが、まだまだ飽きません。毎年楽しみにしています。

さて、どうでもいい話は置いておいて、
今日は、短編映画の魅力をお伝えしにやってきました。

CLARK THEATER2011では、
今年の札幌ショートフェストで上映された学生映画の中から厳選された9作品を特別に上映します。
日本だけでなく、フランスやチェコ、韓国など様々な国の学生によるショートムービーが楽しめます。
今日は、そのなかでも個人的にオススメの4本をご紹介!

・Look before…(チェコ/8min)

高層ビルの上から、今にも飛び降り自殺をしようとする男性。
彼は、向かい側のビルに思い詰めた顔をした女性が立っていることを発見します。
すごい状況設定に思わず笑っちゃいます。このあと、どうなるの!??って感じです。
あまり色々言うとネタバレになるので、これ以上は言いません!

・ジョセフィーヌという名の女の子(フランス/22min)

「私は、匂いを嗅いで物事を判断する。」というジョセフィーヌ。
ジョセフィーヌという名前は、1920年代に、パリで一躍スターになった黒人歌手ジョセフィーヌ・ベイカーにちなんで名付けられたんだとか。でも本人はダンスには興味無し。
彼女は、少しというか、かなり変わっている。でも本人は「平凡な人生」と言う。
彼女の言動は、大半がぶっ飛びすぎていて理解しがたいけれど、時に私たちに共感を呼び起こさせる。
強がって「死んでも結婚しない!」と言ってしまったり、妹が自分より可愛かったり・・・
ああ、なんかそういう状況、ある、ある。って思ってしまう人は多いと思う。
自分に自信のない女の子に、ちょっとだけ元気を与えてくれる映画です。

・ブロークン・ナイト(韓国/22min)

今年の札幌ショートフェストで作品部門のグランプリを受賞しています。
物語の主人公は、偽装事故で金を稼ぐおじさん。しかし、逆に彼は当たり屋カップルに狙われターゲットにされてしまうのです。
ここから、おじさんの転落劇が始まります。
最後まで飽きさせない展開で、終止ドキドキしまくりです・・・。
おじさん、今日もいつもと同じ夜が更けるだけだと思ってたんだろうになぁ・・・。
ここ最近、いちばん面白かった短編。たった22分で、こんなにも物語に引き込まれるなんて。。すごい!

・rain town(日本/石田祐康/9min55sec)

石田祐康監督の京都精華大学卒業制作として作られたアニメーション。
石田監督の「フミコの告白」は、NHKの番組「デジタル・スタジアム」で「時をかける少女」などで有名な細田守監督に紹介されていたようです。(凄い!)
一年中雨が降る町に、ある少女が迷い込んでしまうという物語が、静かなピアノ演奏にのせて描かれています。
この作品は、子供の頃の気持ちに戻ったような、なんだか懐かしい気分にさせてくれます。
心地よい余韻のある作品だったので、プログラムの一番最後に持ってきました。
(余談ですが、一年中雨が降る町というと、昔読んだ松本零士「銀河鉄道999」の一年中嵐が吹く惑星を思い出しました。)

短編映画は、独特の中毒性がありますよね。長編映画にはない展開の仕方などにハマってしまうと抜け出せません。
しかも、今回集めた8作品は全て学生の手によるものばかりです。
自分と同じ身分の人たちが、ここまで人を楽しませることができるなんて、信じられません。
また、作品提供にご協力下さったSAPPOROショートフェストさん、本当にありがとうございました。

クラークシアターまであと3日!いよいよ本番がすぐそこまで迫ってきました!
会場でお会い出来るのをスタッフ一同楽しみにしています☆

アヴァンギャルドの女神、マヤ・デレン

2011年10月29日 02:12

こんばんは、シュルレアリスト西本です。
最近めっきり寒くなりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

今日は、
シュールな夢を見ていたいアナタに、とっておきの映画をご紹介致します。

CLARK THEATER 2011で上映される、マヤ・デレンという監督の作品です。
今回は彼女の作品だけでなく、その作品たちをより楽しんで頂くためにドキュメンタリーも上映します。

「マヤ・デレン・・・ってだれ??」という方のために、少しだけ彼女に関する説明をさせて頂きます。

マヤ・デレンは、1917年ウクライナのキエフに生まれますが、ユダヤ人迫害に追われ、まもなく家族とともにニューヨークへ引っ越します。
大学では政治学やジャーナリズムを学びますが、ひょんなきっかけから人類学へも興味を持つようになりました。
その後、26歳で(若い!)映画史に残る傑作「午後の編目」を製作・発表。この映画は、1947年カンヌの実験映画部門でグランプリを獲得します。
この作品で、彼女の評価は決定的なものになりました。しかし、彼女は6本の短編映画と1冊の著作を残した後、44歳という若さで亡くなってしまうのです。

彼女は、映画作家、人類学者、振り付け師、ダンサー、巫女といった肩書きを持ちます。
この肩書きの多さ、あるいは幅広さから、皆様はきっと「この人、ただ者ではないゾ!!」という予感を抱くでしょう。
そして彼女の映画を観れば、その期待は決して裏切られません。

ここからは、彼女が残した6作品のなかから、3作品に焦点を当てて個人的なコメントをさせて頂きます。

・午後の網目(1947年)
映画史に残る傑作と言われています。
この作品は、まるで誰かの夢の中を覗いているような感覚にさせてくれます。
夢に秩序がないように、この映画にも秩序はなく、
観る側にとってはある種の置いてけぼりを食らう感がありますが、これがなぜか私には心地よく感じます。
「陸地にて」とともに、夢をショットのつなぎで表現しようとするなど、とてもシュールレアリスム的な作品だといえます。

・変形された時間での儀式(1946年)
ドキュメンタリーのなかで、彼女は「映画は時間の芸術」だと語ります。
そして彼女は、「スローモーションでは、動きの構造がわかる。速い動きでは、それが一連の動きに見えても、スローでは迷いや震え、反復が見える」と続けます。
「変形された時間での儀式」は、彼女のこの言葉を頭に入れて観ると少し見通しがよくなる映画だと思います。
この作品のなかでマヤは、映像を自在に一時停止させたり、スローモーションにしたりします。
作品中のスローになっている動きに注目することによって、彼女の意図を汲み取ることが出来るような気がします。

・夜の深み(1952年〜59年)
6作品の中で一番ロマンチックな作品です。ドキュメンタリーでは、この映画の撮影風景も覗く事が出来ます。
マヤの映画は基本的に静かですが、この映画は当時彼女の夫だったテイジ・イトーの音楽も楽しみのひとつだと思います。テイジ・イトーは現代音楽作家で、「午後の編目」の音楽も担当しています。(そのため、「午後の網目」の音楽は日本風です。)

ドキュメンタリーでは、彼女の知人によるインタビューだけでなく、マヤデレン自身の言葉もたくさん聞くことができます。入念に考えられて発せられるという彼女の言葉は、とても格言的なものが多く、聞いていてはっとさせられます。
また、マヤがハイチで撮影したブードゥー教の映像も個人的には興味深いものでした。

ここまで長々と読んで下さった方、どうもありがとうございます。
少しでも興味を持って下さった方は、ぜひクラークシアターへお越し下さいね!

次回はショートフェストのプログラム紹介で登場します。ではまた!